真宗大谷派 西照寺

ホーム > 雑文・文献・資料 > 清沢満之 > 『ヘーゲル』意訳

『ヘーゲル』意訳


第二章 エンチクロペディー 第二部 自然哲学(万有哲学)

画像
画像


 理念の表現が自然(万有)である。(この表現は前の開発とは異なる。)理念を主観として、自然が客観となる。 すなわち〔自然は〕理念が思想上の抽象を脱して、他なる存在(実物)と顕れたもの、 すなわち理念の外部にあるようなあり方─外面性(外発)─を取ったものである。〔eU§247〕
 〔その自然は〕全体的に言うと理念にあったような一致は隠れている。その自然の中を探究してみると、 ついにはその中から精神が顕れてくる。そして、霊性あるいは精神という段階に移ることになる。

1 力学(器械学)

 はじめに、力学(器械学)は重学とも言う。ここでは、すべてのものを空間上にある物質と認める。 その各々のものが離れ離れになっている。しかし、その中で幾分かの統一が認められ、その統一を為すものが重力あるいは引力である。
 この統一について考えてみると、すべてのものについて一中心点があり、そこにおいて関係していると見る。 いわゆる重力の中心があるという考え方である。そうすると幾分かは統一が起るが、しかし、 重力の中心だけで考えるということは極めて抽象的な考えである。つまり、分量だけを問題にして、 性質を度外視したことになる。物には各々に性質─粘着性、弾力性、色、光、音等─がある。その性質が相寄って物体を成す。 それを考えなければならなくなる。これは、物理学に属することになる。物理学は物の性質を有する辺りまでを研究する。

2 物理学

 物理学の中で物の性質を研究していくと、化学作用に至って一種の変り目が起る。それは化学作用において、 物のそれまでの性質が変化することが起きるのである。水素と酸素が結合して水になる、というような場合である。 しかし、これもまだまだ物と物との働きである。
 ところが、その働きが他に制御されて起る、という面に移る。すなわち、生活・生命によって制御される。 それを研究するのが有機体学(有機学)である。

3 有機体学(有機学)

 有機体学の中で地質学(地質学・鉱物学)では、生命の過去の現象を調べる。昔の植物、動物等の化石となったものが鉱物である。 その過去を探究する場合、現在のありさまというものも当然関係してくる。
 そこで、植物を研究する植物学に移る。これは生命の初歩で、同化と生殖の現象を認めるに止まる。同化とは動物・植物において、 外界と一体化(我が物)しているということである。
〔「植物はまだはじまったばかりの直接的・主体的な生命体だから、客観的な有機組織と主体性とがいまだ直接に一体化している」 eU§343
「有機物は外界に抗して自己を保存します。が、有機物が外へとむかうだけでなく、 自分のうちで外界との緊張を保つというのは矛盾であって、そうした矛盾する関係のなかで、二つの自立存在が相対峙し、 外界の事物は克服されねばならない。有機組織は外界の事物を主体的に設定し、それをわがものとし、 それを自分と一体化させねばならず、それがすなわち同化の作用です。」eU§357〕
 この植物では、まだ充分な有機組織は顕れていない。どの部分を取ってみても、そこで一体を成しているといってよい状態で、 枝はそれだけで樹となりうる。また根が枝となりうるし、枝が根ともなりうる。つまり、 部分と部分とが緊密に相依り相助けてはいない。そのような有機組織が充分に顕れているのは、動物界で、この段階になると、 同化・生殖の他に運動、感覚、体温(持熱)、発声といった働きが具わり、その他色々な精神的働きが出てきて、 霊魂というべきものが認められるようになる。それは自由に活動するものである。よって、 他なるもの(外物)からの制約を受けない。
 ここで、自然哲学の範囲を脱して、精神界という別の範囲を形成するに至る。

前ページ トップ 次ページ

『ヘーゲル』意訳

更新情報・使用法・凡例
はじめに
-----意訳開始-----
緒論

第一章 エンチクロペディー 第一部 論理学(論法)

第二章 エンチクロペディー 第二部 自然哲学(万有哲学)
1 力学(器械学)
2 物理学
3 有機体学(有機学)

第三章 エンチクロペディー 第三部 精神哲学

批評

-----意訳終了-----

原文

pdf版(印刷用)

 (C)西照寺 2007年来