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『純正哲学』意訳
純正哲学(哲学論)
文学士 徳永満之 講義
序言
[1] 講義の方法
哲学を講義する場合には三つの方法がある。
1 講義者本人の自説を述べる。
これは自分の説を述べるので正確ではあるが、評価の確立した大家でもないかぎり 独断の悪影響を及ぼす可能性がある。
2 過去数百年来の哲学史に従って、主要な哲学者の説を述べる。
これは各哲学者の説を概観し、その長所・短所を手短に知るには都合が良いが、それぞ れの説を詳しく知ることは難しい。
3 特定の学者の説を詳しく述べる。
これはその学者の説を詳しく知るには都合が良いが、その説のみに偏ってしまう可能性 がある。
しかし、ここでは方法の良し悪しの検討はせず、三つの方法のうちのどれを講義方針とするかを決めることにする。
1は私の取るところではない。
2は既にこの哲学館の科目として別にある。
したがって私は3によって、ドイツのロッツェ(Rudolph Hermann Lotse 1817〜1881)の説を根拠として
哲学の講義をしようと思う。
ロッツェは最近の学者で、その説の特徴は唯心論、唯物論の何れにも偏らず、両者の中庸を取り、
補完関係を築こうとする。そして自然科学の理論的基礎となる原理を究明することが、哲学の要点であるとしている。
したがって科学全盛の今日において研究する意義のある説としなければならないからである。