真宗大谷派 西照寺

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縁起


2 典拠による表現と意味

 先ず、経論における縁起への言及を引用し、そこから縁起の意味となる語句を抽出してみよう。


・引用1

比丘等よ、縁起とは何ぞや。
比丘等よ、生の縁よりして、老死あり。
如来世に出づるも、若しは如来世に出でざるも、この界は確立し、法の確立性、法の決定性、此縁性なり。
如来はこれを現等覚し、現観す。
如来はこれを現等覚し、現観し、これを宣説し、説示し、知らしめ、提示し、開顕し、解説し、明確にし、 汝等見よ、と言う。
・・・
比丘等よ、無明の縁よりして、行あり。
比丘等よ、かくここにおける真如、不虚妄性、不異如性、此縁性なるもの、比丘等よ、これが縁起と言われるものである。
(パーリ『相応部』第十二「因縁相応」第二十経)
[法と縁起492]

意味:法の確立性、法の決定性、此縁性、真如、不虚妄性、不異如性である。


・引用2

此れ有るとき、彼れ有り、此れ生ずることより、彼れ生ず。
此れ無きとき、彼れ無く、此れ滅することより、彼れ滅す。
即ち、無明の縁よりして行あり。行の縁よりして識あり。乃至、このごときがこの全苦蘊の集なり。
しかし無明を余りなく離貪し、滅したことより、行の滅あり。行の滅より識の滅あり。乃至、このごときが この全苦蘊の滅なり。
(『南伝』第一三巻、四〇、96頁、その他。『雑阿含経』巻一二、大正二、八四中、その他。 『中阿含経』巻四七、大正一、七二三下。)
[法と縁起540]

ここで
「此れ有るとき、彼れ有り、此れ生ずることより、彼れ生ず。
此れ無きとき、彼れ無く、此れ滅することより、彼れ滅す。」
の句は「縁起の型」と呼ばれる定型句([仏教学序説83])で、「此れ」と「彼れ」との有無、生滅の関係性を示す。
意味:縁起の型によって表される。


・引用3

『大事』に含まれている「アヴァローキタ・スートラ」に釈尊の成道が説かれている。そこでは『四分律』と 同じように「四禅三明」によって悟ったことが述べられ、「苦の四諦」と「漏の四諦」によって、漏を断じたことを 示し、次に十二縁起を説いている。

即ち、此れ有るとき彼れ有り。此れ無きとき彼れ無し。此れが生ずることより彼れ生じ、此れが滅することより 彼れ滅す、と。
無明を縁として行あり。行を縁として識あり。識を縁として名色あり。名色を縁として六処あり。 六処を縁として触あり。触を縁として受あり。受を縁として渇愛あり。渇愛を縁として取あり。取を縁として有 あり。有を縁として生あり。生を縁として、老死愁悲苦憂悩あり。かくのごときが純大苦蘊うんの集起なり。
さて無明の滅より行の滅あり。行の滅より識の滅あり。識の滅より名色の滅あり。名色の滅より六処の滅あり。六処の 滅より触の滅あり。触の滅より受の滅あり。受の滅より渇愛の滅あり。渇愛の滅より取の滅あり。取の滅より有 の滅あり。有の滅より生の滅あり。生の滅より老死愁悲苦憂悩の滅あり。かくのごときが純大苦蘊の滅なり。

とある。ほぽ十二縁起説としては完全であり、順観と逆観とを含んでいる。さらに『摩詞僧祇律』にも、「陰界入十 二因縁観」を説くことが、弟子への教誠として、その巻八、一七、二六等に説かれている。
[法と縁起293]

ここで
「(A)無明を縁として行あり。行を縁として識あり。・・・老死愁悲苦憂悩あり。かくのごときが純大苦蘊うんの集起なり。
(B)無明の滅より行の滅あり。行の滅より識の滅あり。・・・老死愁悲苦憂悩の滅あり。かくのごときが純大苦蘊の滅なり。」
の句は十二縁起(または十二縁起支)と呼ばれる定型句である。
この連鎖する単語は十二個あり、支分と呼ばれる。
無明1─行2─識3─名色4─六処5─触6 ─受7─愛8─取9─有10─生11─老死愁悲苦憂悩12
(A)、(B)の文章は十二個の単語の隣り合う二個を一組として句が構成され、その句が十一個並んで文章が作られている。 (A)を順観、(B)を逆観という。
意味:十二縁起によって表される。


・引用4

彼に、この聖なる理趣が般若によって、よく見られ、よく通達されるとは如何。
家主よ、ここに聖声聞は「縁起」をよく作意す。かく、
「かれが有るとき、これが有り、かれが無いとき、これが無い。
かれが生ずることより、これが生じ、かれが滅することより、これが滅す」 と。
即ち、無明の縁より行がある。行の縁より識がある。・・・
(パーリ『相応部』第十二「因縁相応」第四一経)
[法と縁起493]

意味:作意するものである。


・引用5

よく諸もろもろの戯論けろんを寂滅せしめる吉祥なる縁起、その縁起を説きたまえる 正覚者、諸説法者中の最勝なる、かの仏に、われは帰敬礼する。
(筆者注:龍樹の中論の劈頭偈の一部)
[仏教学序説126]

意味:戯論を寂滅せしめるもの、吉祥である。


・意味のまとめ
 上記の意味をまとめる。
縁起の意味

  1. 法の確立性、法の決定性、此縁性、真如、不虚妄性、不異如性である。
  2. 縁起の型によって表される。
  3. 十二縁起によって表される。
  4. 作意するものである。
  5. 戯論を寂滅せしめるもの、吉祥である。

この通り、意味といっても我々にとっては殆ど言葉の置き換えに止まっており「意味が通じない」のが 偽らざるところである。しかしまた「〜によって〜がある」という一見凡庸な表現に囚われていては 伺い知ることのできない、多様な深い意味があるのだろうという見当は付く。 次節からその探求を始める。

 

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縁起

目次
引用文献一覧・凡例・更新履歴
1 はじめに
2 典拠による表現と意味
3 考えるということの道具立て
4 縁起表現の表と裏
5 縁起を語る釈尊の姿勢
6 縁起表現の構成
7 十二縁起支の解明
7.1 推理的順序による直列的な解釈例
7.2 縁起支をたどる
7.2.1 老死愁悲苦憂悩
7.2.2 生
7.2.3 有
7.2.4 取
7.2.5 愛
7.2.6 受
7.2.7 触
7.2.8 六処
7.2.9 名色
7.2.10 識
7.2.11 行
7.2.12 無明
7.3 転回
付録1 十二縁起の変節・説一切有部「三世両重因果」
付録2 伝許・伝説─世親の不信表明
付録3 「大乗」のニュアンス─世親、親鸞に通づるもの

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