真宗大谷派 西照寺

ホーム > 雑文・文献・資料 > 縁起

縁起


7.2.5 愛

 さて、取の別の面を考える。解りやすい例として「腹が減る」ことを題材としよう。腹が減るという 「外から降ってくる」事態は、通常は定期的な食事によって解消される。しかし食物を摂取できない状況に 追い込まれたとき飢餓感になり、それを解消することが他の何にも増して優先するべき強制となる。 それは他律的な強制であるが、また同時に「喰うことの他は眼中に無い」という、強烈な自律的欲望として 現れる。
 つまり「外から降ってきた強制」は「強烈な自分自身の欲望」となるのである。この欲望を指して 「愛」詳しくは「渇愛」という。この欲望は「生命欲」や「本能」と言っても良いものだろうが、本質的 には他者を殺すことも辞さない、すなわち倫理を破壊することも辞さない強烈なものである。
自己の身体を保存する「生命欲」をとりあえず満足すれば、人間として認めうる最低条件を満たす。 そして、人間すなわち「他者と言葉を媒介として関わる生物」として生きるようになる。
二者関係、また複数の他者との関係の中で「外から降ってくる」他律的な事態の別の面である自律的欲望の渇愛は、 関係の複雑さに応じて性欲、所有欲、虚栄心、傲慢、征服欲など様々な相となる。

前ページ トップ 次ページ

縁起

目次
引用文献一覧・凡例・更新履歴
1 はじめに
2 典拠による表現と意味
3 考えるということの道具立て
4 縁起表現の表と裏
5 縁起を語る釈尊の姿勢
6 縁起表現の構成
7 十二縁起支の解明
7.1 推理的順序による直列的な解釈例
7.2 縁起支をたどる
7.2.1 老死愁悲苦憂悩
7.2.2 生
7.2.3 有
7.2.4 取
7.2.5 愛
7.2.6 受
7.2.7 触
7.2.8 六処
7.2.9 名色
7.2.10 識
7.2.11 行
7.2.12 無明
7.3 転回
付録1 十二縁起の変節・説一切有部「三世両重因果」
付録2 伝許・伝説─世親の不信表明
付録3 「大乗」のニュアンス─世親、親鸞に通づるもの

 (C)西照寺 2007年来