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コーヒー豆焙煎器・加湿器
コーヒー豆焙煎器
毎朝、コーヒーを飲むのが習慣になっている。ドリップしたコーヒーを大きめの
コップに七分目ほど入れ、後の三分目に牛乳を足す。これを飲むと一日のはじまり
である。
このコーヒー豆は十年以上自分で焙煎している。
自分で焙煎する前は、高校の先輩が開いていた喫茶店で焙煎していた豆を買ってい
た。この豆は素晴らしいもので、200gを挽いてくれるように頼むと、プラス
チック袋に入れてセロテープで封をし、さらに紙袋に入れて渡してくれる。
それを鞄に入れて地下鉄
に乗ると、その鞄からコーヒーの香りが漂いだす。「コーヒーの匂いするね」
「うん、いい香り」という、近くにいる人達の会話を何度も聞いた。
家に帰って、この挽きたての豆に最初の湯の数滴を注ぐと、粉がフワッと盛り上が
る。蒸らしてから連続して注ぎ始めると、その盛り上がりがドリッパー一面に
広がり、部屋中が香りで満たされる。味はコクがあって飽きないものだった。
私はこの豆に満足していた。200gで約二週間持ったので二週間にいっぺ
んは店に行って、コーヒーを飲み豆を買うという生活を続けていた。
ところが、その店を先輩の都合で閉めることになった。
店が無くなってみてハタと困った。豆をどこから買えばいいのだろう。
デパート食料品売り場のパッケージ物や、何件かの店の自家焙煎物を試してみたが
どれも納得できるものがない。それでもある喫茶店の自家焙煎物に妥協ししばらく
それを買っていた。
そのうちに、私の兼業(コンピュータ屋)の仕事仲間から自分で生豆を買って焙煎
している、という話を聞いた。インターネット通販で、生豆と電動式焙煎器を購入
して始めたという。
彼の話を聞いて自分もやってみようと決めた。
早速、豆と焙煎器を手に入れ、自家焙煎を始めた。最初は勝手が分からず、黒焦げ
の豆や半生の豆を作ったりしたが、好みの設定に落ち着くと生豆を放り込んで、スイ
ッチを押すだけで20分程で出来上がる。豆を攪拌したり風を送り込む音は電気掃除器
以上の騒音を出したが、それを辛抱すれば楽なものだった。煎り上がった豆は、先輩
の店のものにはまるで敵わなかったが、他の店から買っていたものよりは良い味なの
で一応満足した。
この器械は韓国製だった。日本製は無いらしい。何故かというと、
焙煎される豆は発火寸前まで加熱されるので、発火したときの賠償責任リスクを
を日本の製造業者は嫌うということだった。
この器械は二年位は持ったと思うが、ある時動かなくなった。修理に出そうとしたが
輸入業者は販売のみで修理部門が無かった。さらに、この器械は既に輸入を
停止していた。こうなると大変である。いまさら喫茶店に
買いに行くのも嫌だ。インターネットを探し回り、何とか別の器械を見つけた。
これは香港製か韓国製かどちらかだったと思う。ところがこれも二年位で壊れた。
二台故障するに及んで考えた。加熱、豆の攪拌、冷却の送風とかなり過酷な動作を
要求される器械ではある。しかし、あんまり寿命が短かすぎるんじゃないか。
プロ用だともっと信頼性の高いものがあるらしいが、当然はるかに高い。
喫茶店を開くわけじゃあるまいし、そんな出費はできない。
この価格帯(三万円前後)の電気式焙煎器はダメだと結論した。
ではどうするか、そういえば前にガスコンロに懸ける手回し式の焙煎器を見たこ
とがあった。人力で行こう。
早速扱っている業者を探し出した。手回し式といっても安いのから高いのまで色々
ある。その中で一番安いものを発注した。要するに丸いブリキ缶に
回転用のハンドルが付いているだけの代物である。缶の中に生豆を入れ、付属の
台に載せそれをコンロに掛けて、煎り上がるまで手で回す。
これも最初は勘所を掴むまで失敗したが、慣れると約二十分程の忍耐作業である。
煎り上がって煙を出している豆を手早く金網の笊に入れ、
外に持っていってウチワで扇いで冷却しつつ煎り殻を吹き飛ばす。
台所のコンロはゴトクの足とバーナーの蓋いカバーが邪魔をして台が安定しない
ので、それらを外して床に置いてからはじめる。終わったら飛び散っている煎り殻
を掃除してゴトクとカバーを元にもどす。
これが私のここ五、六年来の十日毎の日課となった。
人力になって無故障を手に入れた。
ちなみに、手動式になっても先輩の豆のような味はできないことがわかった。
設備はもちろんだが、よほどのプロの経験が込められていたのだろうと思う。

自家焙煎セット。手回し焙煎器、金網笊、ウチワ。
加湿器
西照寺には本堂・会館の建物の他に庫裡(母屋)と別棟がある。
別棟はOMソーラーという太陽熱利用の暖房設備をしている。屋根にガラス面が設置し
てあって、そこで集熱した暖かい空気を直径30cm位の送風管を通して一階床下の蓄
熱空気層に送り込む。そこに貯まった暖気が、床の通気口を通して吹き出し、建物全
体を暖めるという仕組みである。太陽が顔を出さないときは、補助ボイラーが自動運
転する。この別棟の二階が私の仕事部屋である。
別棟を建てて住み始めた約十年前、室内が
かなり乾燥することに気が付いた。冬になって暖房運転が本格化すると、湿度が20%を
切る日々がひんぱんになる。こうなると足のあかぎれが酷くなり、肌が乾いて痒くな
り、風邪を引きやすくなる。OMソーラー使用者の情報を集めると、加湿用にボウルに水
を張り、送風管吹き出し口近く置くと良いという例があり、さっそく4L程のボウルに
水を入れ置いてみたが二,三日経っても一向に蒸発しなかった。保温層の地下空間
には熱気が貯まっているのだが。
これはだめだと、
近くの電気屋に走って、加湿器を二台購入した。日本の魔法瓶メーカー製の沸騰式で
これを仕事部屋に置き、湿度を40%台まで持っていった。暫くはこの方式で冬を過ご
したが一台が三年ほどで壊れた。日本製もずいぶん壊れやすくなったものである。
一台だけでは湿度を保てない。今度はドイツ製の加湿器に手をだした。
円盤が何枚も重なったドラムが水を張った桶の中で水車のように回転し、円盤が空気
に接する部分から自然蒸発させる仕組みである。その仕組みに惹かれて購入し、効果
はあったが、やはり三年で回転部のギアの噛み合わせが故障してしまった。
こうなると焙煎器と同様に加湿器というものに不信感が出てきた。そして一台残った
蒸気式だけでしのいでいたが、今冬初め、それも壊れた。
さてどうするか。風邪は引きたくない。加湿器を買うつもりはもう無い。
メカニカルな製品に頼らないで、解決する方法は無いか、二日ほどつらつら考えた。
ボウルの水が蒸発しなかったのは、温度のせいではない。ドイツ製加湿器は常温で
十分蒸発していたではないか。そうすると、あれと同じように蒸発面を多くする
工夫をしたらどうか。そう考えて台所用品でよく見かけるワイヤーの水切り棚に
おしぼり用タオルを何枚も垂らし、それをボウルに浸したらどうかと思いついた。
水は毛管現象でタオルに吸い上げられ、タオルの表面は常に湿った状態になるはず。
そして、送風管からの暖気はその間を通過して蒸発させる。湿度の高い暖気が床下
から出てくるはず。ということで、やってみた。結果は上々。
ボウルの水は一日で八割方なくなった。気をよくして一回り大き目のボウルをもう
一つ仕入れ、同じセットを作って二セットで運用開始した。
一日で6L前後の水が蒸発するようになり、湿度は30%台後半から40%台を保つように
なった。

自家製加湿器

床下に二基セットの図。毎朝ヤカンに水を汲んでボウルに補給する。
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アーナンダ(阿難)が、ウダヤナ王の妃、シャマヴァティーから、五百着の衣を供
養されたとき、アーナンダはこれを快く受け入れた。
王はこれを聞いて、あるいはアーナンダが
貪むさぼりの心から受けたのではあるまいかと疑った。王はアーナンダを訪ねて聞いた。
「尊者そんじゃは、五百着の衣を一度に受けてどうしますか。」
アーナンダは答えた。
「大王よ、多くの比丘びくは破れた衣を着ているので、彼らにこの衣を分けてあげ
ます。」
「それでは破れた衣はどうしますか。」
「破れた衣で敷布を作ります。」
「古い敷布は。」
「枕の袋に。」
「古い枕の袋は。」
「床の敷物に使います。」
「古い敷物は。」
「足ふきを作ります。」
「古い足ふきはどうしますか。」
「雑巾にします。」
「古い雑巾は。」
「大王よ、わたしどもはその雑巾を細々に裂き、泥に合わせて、家を造るとき、壁の
中に入れます。」
ものは大切に使わなければならない。生かして使わなければならない。これが「わが
もの」でない、預かりものの用い方である。
(仏教聖典(第1096版) 239頁 六方礼ろっぽうらい経)
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長々と私のつまらない失敗談を書いた。
ずいぶん間抜けな回り道をして、器械を使わなくても良い解決策を見つけたわけだが、
同時に、ここに引用した「預かりものの用い方」のような物に対するセンスをほとんど失っていた
自分にようやく気づいた。物を買って要求を満たすという考え方─現代ではごく普通の
考え方だろう─にはある種の魔がひそんでいる。
自分の視野や行動の選択の範囲を狭めてしまいかねない危険性を孕んでいる。
(事実私は狭めてしまっていた。)
よくよく注意しなければ。
2008/01/13 星 研良