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煩悩ぼんのう・十悪じゅうあく


 今回の節は「第四章 煩悩 第一節 心のけがれ」(仏教聖典 86〜93頁)です。

心に貪むさぼりと瞋いかりと愚かさがあるときは、口には偽いつわりとむだ口、 悪口と二枚舌を使い、身には殺生と盗みとよこしまな愛欲を犯すようになる。 意の三つ、口の四つ、身の三つ、これらを十悪という。(92頁)

 「煩悩」は仏教の基本用語で、かつ日常語にもなっており、私たちにとっては身近な言葉です。 しかし改めてその意味を考えると、はっきりしていないというのが、おおかたの感想でしょう。 今回はこの「煩悩」と上に引用した「十悪」について解説します。

1 煩悩
 意味は一言で言うと「心身を乱し悩ませる心の内容の全て」です。
そして煩悩は次の根本煩悩と十纏じゅってん(まとわりつくもの)とに分けられます。

・根本煩悩

  1. 貪欲とんよく:生きることに欠かせない欲望(食欲、性欲等)から、生活の中で現れる欲望(物欲、金銭欲、名誉欲等)すべてを含む。
  2. 瞋恚しんに:怒り、腹立ち、憎しみ。
  3. 愚痴ぐち:ものごとの道理を明らかにしようとする力に欠けること。
  4. まん:他人に対して誇りたがるおごり。
  5. :ものごとに対しての態度を決めかね、ためらうこと。ここから恐怖も生じる。(「疑」には自分が納得できないことを追求して明らかにするという積極的な意味もあるが、ここでは含めない。)
  6. 悪見あくけん:ものごとに対する誤った見方。よこしまな考え。
貪欲、瞋恚、愚痴は根本煩悩の中でも基本となるもので三毒さんどくといわれます。

・十纏じゅってん

  1. 無慙むざん:自分に対して恥じる気持ちの無いこと。
  2. 無愧むぎ:他人に対して恥じる気持ちの無いこと。
  3. しつ:ねたみ。
  4. けん:ものおしみ。
  5. 悪作あくさ:比較的軽い悪い行いを為すこと。こそどろ、器物損壊、いじめなど。
  6. 睡眠すいめん:居眠り。
  7. 掉挙じょうこ:心の浮つき。躁の状態。
  8. コン沈こんじん:ふさぎこむこと。鬱の状態。
  9. 忿ふん:恨み。
  10. ふく:自分の過ちを隠すこと。
根本煩悩はまた見惑けんわくと修惑しゅうわくに分けられます。見惑はさらに八十八に分けられ、 修惑はさらに十に分けられてこれらを足すと九十八になります。さらに十纏を足すと百八となります。熟語として広まって いる百八煩悩はこれです。しかし煩悩の基本的な意味は根本煩悩と十纏でほとんど尽きています。百八の種類分けはそれを さらに細かく分けたものにすぎません。

このように煩悩は根本煩悩の六と十纏の十の計十六で表されます。(他の分類のしかたもあるのですが、ここでのとらえ方で 主要な部分は尽しています。)
 一読されるとお解りのように、十六個のそれぞれの思いや行いをしたことの無い人は無いでしょう。いちいち自分の経験に 照らして頷うなづくことがあるものばかりと思います。
 十六個の内容は私たちの心の動きにみごとにあてはまります。そして、それぞれの内容をよく考えるとき、私たちはそこから 決して逃れることができない者であることを思い知らされます。
 それはまた、私たちが身体からだを持ち、心は身体を離れてはありえず、また身体は心を離れてはありえない、 という事実の厳しい表現なのです。
 しかし、私たちはともするとこの事実を忘れがちで、身体と心は別々に有り、心は常に正しく身体はその心の自由になるものと 思いこみがちです。しかしこの煩悩の教えは、そのような思いこみがまちがいであること、「自分は正しい」と思っている その心が、実は貪欲や瞋恚や愚痴で支配されていることを容赦なくさらけ出します。

2 十悪
 さて、身体と心を持つ私たちは避けようなく煩悩に支配されています。その私たちの生活はどのようなものでしょうか。
 心に自分が正しいと思って行うさまざまな振舞いは、欲望や怒りが動機とならないことはなく、それが言葉に出れば、 自分が正しいと主張し、人をののしり、嘘が混じります。また行動は不実で、つっけんどんな、他人に害をおよぼす可能性を はらんだものとなります。この行動のいきつく先としては人殺しや窃盗、強姦となります。そのような罪を犯しかねない種を 内に抱えこんでいることを認めざるをえません。(そして現代の状況は個人においても、集団においてもこの種が突然に発芽し、 凄まじい被害を及ぼすものであることを毎日のニュースは示しています。)
 私たちは日常、そのような大それた犯罪には無関係であるという意識で生活していますが、煩悩の各項目によって冷静に 反省すれば、犯罪の種は心の底に眠っているということを思い知らされます。
 そのような罪を犯したことが無いと私たちが言いうるのは、たまたま犯罪の種が芽を出す機会がなかっただけだった、 ということを認めなければならないことを知ります。不幸にもその機会に遭遇せざるをえない状況に追い込まれたとき、 私たちは犯罪を避けることは決してできないでしょう。

次の歎異抄十三章での親鸞の言葉は私たち各自のこの恐るべき可能性を的確に言い当てています。
「なにごともこころにまかせたることならば、往生のために千人ころせといわんに、すなわちころすべし。 しかれども、一人にてもかないぬべき業縁なきによりて、害せざるなり。わがこころのよくて、ころさぬにはあらず。 また害せじとおもうとも、百人千人をころすこともあるべし

 この私たちの心身のあり方を象徴的に表したものが十悪なのです。

  
十悪じゅうあく身口意しんくいの三業さんごう
殺生せっしょう:広い意味では生物全般を殺すことだが、ここでは特に殺人を指すといっていい。身の三つ
偸盗ちゅうとう:盗み。悪作の部類に属する軽い犯罪から巨額の強盗、身代金誘拐などの重大な犯罪まで。
邪淫じゃいん:夫婦でない異性間の淫行。不倫から強姦まで。
妄語もうご:嘘。口の四つ
綺語きご:ざれごと、べんちゃら、でまかせ、みだらな冗談。
悪口あくく:人を悩ます言葉。粗野な言葉。
両舌りょうぜつ:かげぐち、二枚舌。
貪欲とんよく意の三つ(三毒)
瞋恚しんに
10 愚痴ぐち(邪見)
この表は仏教の伝統にしたがって、身・口・意の順番で「外側から」並べていますが、実際に自分自身の出来事として起きる 場合は「内側から」、意・口・身の順番になります。

すなわち意(= 心)に煩悩の三毒を持つ私たちは、口に他人を害する言葉を吐きかねず、さらにそれがエスカレートすると 身に他人を害する行動を起こしかねない者であるということを、十悪の分類は冷徹に示しています。
 この身・口・意が一つのものとしてあるということが、私が生きているということであり、その中身は十悪の可能性を常に 抱えこんでいます。そして強弱の差はあれど、十悪のいずれかを身口意に現しながら今を生き、その過去の経験を記憶として 蓄積しつつ、未来にまた十悪を行いかねない判断を下していくものなのです。こうして、消すことのできない過去を抱え 今を生き未来に向かわざるをえない私たちのあり方をごうと言うのです。

 煩悩・十悪というとらえ方は、私たちの業の本質を自分自身に徹底して知らしめるための、重要な方法です。 そして業の本質に正面から向き合うところから、業を乗り越えていく道は始まります。

                                 2009/02/25

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